びわこ集会(2013.3.10)における井戸謙一弁護士(元裁判官)の特別報告の全文を紹介します。
小見出しは文字起こしをした方が付したものです。
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福島第1原発の事故は全く収束していない
皆さん、こんにちは。弁護士の井戸といいます。午前中神田さんの講演に参加しましたので、滑舌が良くなったかよくなっていないか分かりませんが、報告をさせて頂きます。
皆さん、福島第1原発の事故は全く収束しておりません。今、現在も毎日2億4000万ベクレルという大変な放射能が環境中に放出されています。東電は、これを抑えることすら出来ていません。大きな余震が来て4号機の壁が崩れて、1500本に及ぶ使用済み核燃料棒の冷却が出来なくなれば、東日本に人が住めなくなる。それ程の被害が予想されています。破局に至るのを防いでいるのは、命、自分の命を削って被曝労働に従事してくれている何千人もの労働者の方がいるからです。私たちは、今でも、薄氷の上で生活しているのです。しかし、それにもかかわらず、福島第1原発事故は終わったという雰囲気が社会に作りだされようとしています。
原子力村の巻き返しと声を上げる市民
原子力村の巻き返しは顕著です。安倍政権は原発の再稼働を明言しました。原発の輸出にも本格的に取り組む気配です。原子力規制委員会は、福島第1原発事故の原因すらわかっていないのに、拙速にも、7月にも新安全基準を設けて、順次原発を再稼働させようとしています。政府の各種の委員会からは、原発に批判的な専門家がどんどん排除されていっています。そして、各地の市民運動に対する弾圧も厳しくなって、市民が何人も逮捕されています。
しかし、私たちは、3.11の後、たくさんの人間が街頭に出て、原発反対の声を上げてきました。それから、訴訟を起こすというそういう形でも声を上げてきました。3.11の後、たくさんの訴訟が新たに起こりました。私が知っているだけでも17あります。大飯原発に限って言えば、大津地裁、京都地裁、福井地裁、大阪高裁、大阪地裁に2つ、全部で6つの訴訟が起こっています。訴訟が大飯原発を包囲している、そういう状態です。しかも、それに参加している原告の数が半端ではありません。京都地裁の大飯原発訴訟は1100人、札幌地裁の泊原発訴訟1200人、鹿児島地裁の川内原発訴訟は1600人、そして佐賀地裁の玄海原発訴訟は5400人です。
このように、市民が大きな声を上げてきたがために、確かに大飯原発3.4号機の再稼働は許してしまいましたが、それ以外の原発の再稼働は阻止してきています。その結果、原発が無くても電力供給に何の問題も無いのだということが、白日の下にさらされることになりました。私たちは、この声をもっともっと大きくして、形あるもの、目に見えるものにしていく必要があります。
子どもを守りたい母親、子ども守らない国
ところで、政府は、100ミリシーベルト以下の被曝では健康被害はないと言って、20ミリシーベルトまでは住民を被曝させるという方針を明確にしています。20ミリシーベルトを超えないと避難区域に指定しないし、避難区域が20ミリシーベルト以下になると帰ってこいと言います。しかし、日本の法律は、1ミリシーベルトしか一般公衆には被曝させないと決めています。5.2ミリシーベルトを超えると放射線管理区域と指定して、放射線業務従事者でなければ立ち入りさせてはならないと決めています。チェルノブイリでは、5ミリシーベルトを超える地域の人たちは強制的に避難させられました。20ミリシーベルトの環境で、どうして子どもを安全に、安心して生活させることができるでしょうか。避難区域以外からも、たくさんの人が自主避難しています。家を捨て、仕事を捨て、故郷を捨て、考え過ぎだ、神経質すぎるなどと言われながら、それでも子どもを守りたいという一心で、たくさんのお母さんたちが避難しています。公的な援助はほとんどなく、経済的にも追い詰められ、皆さん本当に疲れ切っています。
一方、福島では、避難したくてもどうしても条件がゆるさず、避難することができず、しかし、子どもの放射能汚染を心配し、食材の選択、或いは、洗濯物をどこに干すか、子どもの外遊び、そういうことに気を使って、毎日毎日、神経が張り詰めるような生活をして、疲れ切っているお母さんたちがたくさんいます。子どもの寝顔を見ながら、もしこの子に将来病気が発生したら、それはあの時私が何もかも捨てて、避難するという決断ができなかった私のせいだというふうに自分を責めています。
昨年の6月に、「原発事故子ども・被災者支援法」という法律ができました。この法律は、避難する、福島にとどまる、或いは避難先から帰る、それぞれの人の選択を尊重し、それぞれの人に支援をしようという、そういう立派な理念の法律です。しかし、この平成25年度予算において、この子ども被災者支援法に基づく予算措置がいくらなされたか。0円です。全くなされていません。この法律によると、避難対象区域は政府が決めることになっています。閣議決定で決めるわけですが、政府は法律ができて9か月もたつのに、いまだにサボタージュしてそれを決めていません。それが決められないから予算措置ができないのです。避難しているお母さんたちの願いというのは、本当にささやかなものです。例えば、お父さんが子どもたちに会いに来るための高速道路料金、これを無料にしてほしい。二重生活で経済的に大変です。お父さんたちが会いにこれないと、家族ばらばらになってしまう、せめて無料にしてほしい。しかし、そんなささやかな願いも聞き入れられません。
一方で政府は、あんまり効果の無い除染に莫大な金を使い、或いは、がれきの引き受けを検討したというだけで、実際には全く引き受けていない地方自治体に対して、合計170億ものお金を交付します。この国は、どこか根本的な所でおかしくなっているのではないか、そういう気がします。
福島の子どもたちを避難させるべき
政府の安全宣伝にもかかわらず、福島では健康不安が広がっています。2月13日、福島県の発表によって、既に3人の子どもが甲状腺癌、甲状腺の摘出手術を受けて甲状腺癌であると確認されたことが判明しました。さらに、7人の子どもは細胞診によって、甲状腺癌だと、悪性だという判断がなされています。この7人の子どもも、摘出手術を受ける予定です。この10人の子どもたちは、23年度にエコー検査を受けた38000人の子ども、このうち二次検査が必要だとされた180人の子どもの中からの10人です。二次検査対象者の18分の1が甲状腺癌だった。平成24年度は、約10万人の子どもが検査を受け、二次検査が必要だと判定される子どもは750人です。この子どもたちの精密検査の結果は、福島県は公表していません。もし同じ割合で甲状腺癌が発生しているとしたら40人です。合わせて、既に50人の子どもが甲状腺癌を発生している可能性がある。更に言えば、甲状腺癌の原因となるヨウ素131が最も大量に降り注いだのが、原発から南側のいわき市方面です。しかし、いわき市方面の子どもたちは、いまだにエコー検査すらなされていません。
子どもの甲状腺癌というのは、本来100万人に1人といわれていた病気です。チェルノブイリの近くのベラルーシという国では、チェルノブイリ原発事故前は、1年間に1人くらいの患者でした。それが事故の翌年から数人に増えて、そして4.5年たって、桁が変わって数十人発症するようになりました。福島では、既に2年目に数十人発症しているとしたら、これから4.5年たったら、一体どういうことになるのか、これは戦慄すべき事態ではないかという気が致します。しかも、低線量被曝による健康被害というのは、甲状腺癌だけではありません。各種の癌、それから心臓疾患、糖尿病、白内障、免疫が低下するのでいろんな病気が発生します。今現在、チェルノブイリ周辺では、事故から27年たっているのに、子どもたちの8割は何らかの慢性疾患をかかえていて、健康な子どもは2割しかいないというのが事実です。このまま福島の子どもたちを、手をこまねいて何の対策もとらなければ、将来の福島は、今のベラルーシ、ウクライナのようになってしまう、そういう危険があるのではないでしょうか。このまま子どもたちを高線量地域に放置して、置いていていいのでしょうか。もうすでに、行政が責任をもって子どもたちを避難させるべき時期に来ているのではないでしょうか。そういう気が致します。
放射能安全神話に騙されないこと
行政は、100ミリシーベルト以下では健康被害は生じない、そういう放射能安全神話を今一所懸命振りまいています。彼らはこう言います。確かに、4基の原発がシビアアクシデントを起こして、レベル7の大変な事故が起こった。原発周辺の人たちには迷惑をかけた。しかし、1人でもこの原発で人が死にましたか。福島ではこの放射能による健康被害は発生しません。甲状腺癌の子どもたちは出たというけど、これは事故前から癌になっていたのが、たまたま発見されただけです。たくさんの人が、体調を崩している健康被害が生じているというけれど、これは放射能のことを考えてくよくよ悩んでいるからだ。にこにこ笑って生活していないからだ。そういうふうに言います。
どうしてこの放射能安全神話を振りまいて、国民を洗脳しようとしているのか。彼らは、3.11の前、原発安全神話で国民を洗脳していました。原発は、絶対事故は起さない、だから原発をどんどん広めていこう。しかし、原発安全神話は崩壊しました。新安全基準においても、シビアアクシデント対策をとることは必須の要件になっています。即ち、これから原発は、シビアアクシデントを起こすということが前提で動かすのです。だから、シビアアクシデントが起こっても、大した被害にならないというふうに国民を洗脳しなければ、原発を再稼働するなんてことは出来ないのです。原発を輸出するなんてことは出来ないのです。彼らが、儲けることも出来ないのです。
放射能安全神話に我々が騙されるかどうか、それが原発の再稼働を阻止するかどうかということについても、天王山だと思います。そして、我々がこれに騙されてしまったら、それは、今苦しんでいる福島の人たちを切り捨てることだし、原発の再稼働に道を開くことだし、第2の原発事故に道を開くことです。
そして、その第2の原発事故が、若狭湾で起こるという可能性は決して小さいものではありません。昨年末、原子力規制委員会は、各原発の被害想定をしました。大飯原発については、事故後1週間に100ミリシーベルトの被ばくを予想される地域は大体30キロだから、重点対策地域は30キロでいいんだという結論を出しました。30キロであれば、滋賀県は北部の方が少しかかるだけだから、ああよかったと安心された方がいるかも知れませんが、皆さん、1週間で100ミリシーベルトというのがどれだけの被曝量か、考えてみてください。平均すれば、1時間当たり595マイクロシーベルトです。この辺りは、普段は、0.05マイクロシーベルトですから、普段の1万倍です。今人が住めなくなっている飯館村は、これは事故後1週間の被曝線量が大体10ミリシーベルトだといわれています。大飯原発で事故が起こった時に、どの範囲が1週間で10ミリシーベルトの被曝になるか、これも原子力規制委員会は公表しています。それによれば、100キロです。大飯原発から100キロの地域は1週間で10ミリシーベルト、飯館村程度の被曝になるということです。即ち、滋賀県はすっぽり、琵琶湖もすっぽり入ってしまう。
全原発が廃炉になるまで、声を上げて大人の責任を果たす
私たちは、この地震国に54基もの原発を許してしまいました。しかし、まだ残されている環境、これを何とか守る、子どもたちが泥まみれで砂場で遊べる環境、草原でゴロゴロ寝そべって遊べる環境、これを何とか残してあげる。そして、次の世代にも、たくさんの使用済核燃料をお願いせざるを得なくなりましたが、せめて、これ以上増やさない、これが私たち大人の最低限の責任であるというふうに思います。
私たちは、主権者です。この国のあり様を決めるのは、彼らではなくて、私たちなのです。昨日、今日、明日、全国でたくさんの集会が持たれます。日本だけではなくて、世界中で連帯して、原発に反対する集会が持たれます。今日、これからパレード、デモで、大きな声を上げましょう。そして、明日からも上げ続けましょう。全ての原発が廃炉になるまで、声を上げて我々大人の責任を果たしていきましょう。それをお願いして私の報告とさせて頂きます。有難うございました。
出典:
http://tareguchi.blog.fc2.com